屋久島の山あいにある我が家の2haの土地は、取得したときは竹が一面に茂る荒れ地でした。少しずつ手を入れながら、いつも頭にあるのが「一族の土地」という考え方です。『アナスタシア』を読んで「自分も家族の土地を持ちたい」と感じたものの、「日本で本当にできるの?」「土地はどう手に入れるの?」で止まっている方は多いはずです。
この記事では、一族の土地を日本で始めるための考え方と手順を、土地選びから設計、そして避けて通れない現実的な課題まで、実際に荒れ地を再生してきた経験をもとに具体的に解説します。
一族の土地とは——子孫へ受け継ぐ1ヘクタールの考え方
一族の土地とは、『アナスタシア』シリーズで提案された暮らしの構想です。中心にあるのは「一つの家族が1ヘクタール以上の土地を持ち、そこに食べものの森や生垣、家や池をつくり、子孫代々へ受け継いでいく」という考え方です。物語の中では、こうした土地を「祖国(そこく)」とも呼びます。土地を投資の対象ではなく、家族の命をつなぐ場として捉えるのが特徴です。
これは空想だけの話ではありません。ロシアでは2016年に「1ヘクタール法」と呼ばれる制度が生まれ、極東地域で土地の無償提供が始まりました。世界各地でも、家族の土地を核にしたエコビレッジづくりが広がっています。日本でも、自分でヘクタール規模の土地を取得し、一族の土地づくりを始める人が年々増えています。なぜ1ヘクタールかというと、果樹・畑・雑木林・池・住まいをバランスよく配置し、外部に頼りすぎず暮らしを循環させるのに、これくらいの広さが目安になるからです。
もう一つ大切なのが、一族の土地は「自然を所有して支配する」発想ではない、という点です。むしろ人が土地に手を入れることで、生きものが増え、水と空気が巡り、土地そのものが豊かになっていく——人と自然が互いを育て合う関係を目指します。荒れ地だった我が家の2haも、竹を整理し、木を植え、水の通り道を整えるたびに、鳥や虫が確実に増えてきました。土地を「自分の代で完成させるもの」ではなく「次の世代へより良い状態で手渡すもの」として捉える。この時間感覚こそが、一族の土地という考え方の核にあります。だからこそ、焦って一度に作り込むより、長い目でゆっくり育てる姿勢が向いています。
日本で一族の土地を始める5つのステップ
日本でゼロから一族の土地をつくるなら、次の順番で考えると無理がありません。広さや予算は人それぞれなので、まずは小さく始めて広げる発想が現実的です。
ステップ1:土地を探す(農地法という現実を知る)
最初の関門が土地探しです。ここで知っておきたいのが、農地は誰でも自由に買えるわけではないという点です。農地の売買には農業委員会の許可が必要で、地域によって取得条件があります。一方、山林や原野は比較的手に入れやすく、価格も抑えられます。一族の土地を始める人の多くは、山林や、移住者を受け入れている地域の土地から入っています。市町村の空き家・空き地バンクや、地域おこし協力隊の制度も入口になります。
ステップ2:土地全体をゾーニングする
土地が決まったら、いきなり耕さず、まずゾーニング(区分け)から始めます。日当たり・風向き・水の流れを数日かけて観察し、紙に書き出します。住まいを置く場所、果樹を植える場所、畑、池、雑木林、通り道を、地形に逆らわず配置していきます。低い場所は水が集まるので池や水辺の植物に、南向きの斜面は果樹や畑に、というように、土地の声を読んで決めるのがコツです。
ステップ3:境界に生垣と防風林をつくる
一族の土地づくりで重視されるのが、敷地の境界を生きた生垣(いけがき)で囲うことです。コンクリート塀ではなく、樹木や低木で境界をつくると、防風・防音になり、鳥や虫の住みかにもなって生態系が豊かになります。風の強い場所では、外側に背の高い防風林を一列入れると、内側の畑や果樹が守られます。屋久島は台風が多いので、私もこの防風の列をいちばん先に植えました。
ステップ4:食べられる森(果樹と木の実)を植える
暮らしの核になるのが、果樹や木の実を中心にした食べられる森です。背の高い木、中くらいの木、低木、地面を覆う草を層のように組み合わせると、限られた面積でも収穫量が増え、手入れも減ります。一度根づけば毎年実るので、年々畑仕事が楽になっていきます。土地に長く残る木から先に植えるのが鉄則です。
ステップ5:水と住まいを整える
最後に、水の確保と住まいです。雨水をためる池やタンク、井戸、そして土地の中で水と空気がよどまず流れるように、排水と通気の道を整えます。住まいは、土地全体を見渡せて風が抜ける場所に。すべてを一度に完成させる必要はありません。我が家も再生の途中で、毎シーズン少しずつ変えています。完成形を急がず、土地と一緒に育てていくのが一族の土地の本質です。
ここまで読んで「設計や土づくりを独学で進められるか不安」と感じた方もいるはずです。土地の水と空気の流れを読む技術や、荒れ地を生命あふれる土地へ再生する手順は、独学では遠回りになりがちです。屋久島ダーチャのオンラインスクールでは、私が国内外のプロジェクトと2haの自宅で実践してきた環境再生の知見を、家庭規模に落として段階的に学べます。
小さく始めて広げる|現実的な3つの進め方
「1ヘクタールなんて、いきなりは無理」と感じる方がほとんどです。実際、最初から大きく構える必要はありません。次の3つの入り方なら、今の暮らしを大きく変えずに第一歩を踏み出せます。
- 二拠点で始める:今の住まいは変えず、週末に通える郊外や山間の土地を持つ。移住の決断をしなくても、土地と関わる時間は作れます。通ううちに、その土地での暮らしが現実味を帯びてきます。
- 果樹一本から植える:広い設計を描く前に、まず長く実る木を一本植える。柿や栗、ベリー類など、手のかからない木から始めると、土地との関係が「育てる喜び」から始まります。木は植えた瞬間から未来の収穫を約束してくれます。
- 仲間と土地をシェアする:一家族で1ヘクタールを管理するのは大変です。気の合う数家族で広めの土地を分け合えば、初期費用も手入れの負担も軽くなり、孤立せずに続けられます。
大切なのは、完璧な計画より「まず土地と関わり始めること」です。関わるうちに、その土地が何を求めているか、自分たちがどう暮らしたいかが、少しずつ見えてきます。
一族の土地づくりで失敗しがちなポイントと回避策
これから始める方が陥りやすい点を、原因と対策で整理しました。
| 失敗例 | 原因 | 回避策 |
|---|---|---|
| 農地を買えずに計画が止まる | 農地法の取得条件を知らなかった | 山林・原野から入る。空き地バンクや移住制度を活用する |
| 広い土地を持て余す | 最初から完璧を目指した | 住まい周りの一角から小さく始め、年単位で広げる |
| 植えた木が育たない・倒れる | 風や水の流れを読まず配置した | 先に数日観察。防風林と排水・通気の道を最優先で整える |
| 一人で抱えて疲れる | すべてを自力でやろうとした | 地域や仲間とつながる。木を植えれば年々手入れは減る |
よくある質問
一族の土地について、よく寄せられる質問にお答えします。
Q. 1ヘクタールもの土地が必要ですか?
理想は1ヘクタールですが、必須ではありません。数百坪でも、層を意識した植え方をすれば食べられる森はつくれます。まずは持てる広さから始めて構いません。
Q. 日本では土地を無償でもらえますか?
ロシアの1ヘクタール法のような無償提供制度は日本にはありません。ただし、移住支援や空き家バンクで安く取得できる地域は多くあります。自治体の制度を調べるのが近道です。
Q. 会社勤めのまま、週末だけでも始められますか?
始められます。一度根づく果樹や生垣を先に植えておけば、週末の手入れでも土地は育ちます。むしろ木を中心に設計するほど、通う頻度が少なくても成り立ちます。
Q. 何から手をつければいいですか?
土地の観察とゾーニングが最初です。耕したり建てたりする前に、日当たり・風・水の流れを数日かけて見ること。ここを飛ばすと後で大きくやり直すことになります。

まとめ
日本で一族の土地を始めるための要点を整理します。
- 一族の土地とは、家族の命をつなぐ場として子孫へ受け継ぐ土地の考え方
- 日本では農地法に注意。山林・原野や移住制度から入るのが現実的
- 手順は、観察とゾーニング→生垣と防風林→食べられる森→水と住まい
- 1ヘクタールは目安。数百坪からでも小さく始められる
- 完成を急がず、土地と一緒に何年もかけて育てていく
荒れ地が少しずつ命あふれる場所に変わっていく時間は、何ものにも代えがたいものです。その再生を遠回りせず進めたい方は、屋久島ダーチャのオンラインスクールで、土地の読み方から一緒に学んでいきましょう。
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