5月の屋久島は、雨の合間の朝がいちばんきれい。
今朝も4時半に目が覚めて、コーヒーをいれてから長靴を履いて庭に出ました。湿った空気の中で、いちばん最初に届くのがバラの香り。あの「あっ」と肩の力が抜ける瞬間、伝わるでしょうか。
5歳の娘もまだ寝てるはずなのに、いつの間にか後ろに来ていて、小さな籐の籠を持って「今日もとる?」と聞きました。最近、朝のバラ摘みが私たちの儀式になっています。
このブログでは、屋久島の庭で育てている無農薬のバラと、そこから生まれる小さな暮らしの話を書きます。育て方も使い方も、初心者の方に「これなら私もできそう」と感じてもらえるように。
無農薬でバラを育てる、までの遠回り
正直に言うと、最初に植えたバラは全滅させました。3年前のことです。
引っ越したばかりの頃、苗を5株買ってきて庭に並べた。屋久島の雨と湿気を完全に甘く見ていて、夏が終わる頃には黒い斑点だらけ。葉がぽろぽろ落ちて、あっという間に裸になりました。
ホームセンターに走って、棚に並んでる薬剤を片っ端から手に取って、ふと止まったんです。裏面の注意書きに「皮膚に付いた場合はすぐ洗い流す」と書いてあって、その日2歳になりたてだった娘が庭でしゃがんでアリを観察していた姿を思い出して。
このバラを助けるために、子どもの遊び場に薬を撒くのか。私は何のためにこの土地を選んだんだったか。
そのとき、ふと立ち止まりました。バラはペルシャでもインドでもトルコでも、千年以上前から育てられてきた花。昔の人たちは農薬なんてなかった。なのに、なぜ私にはそれができないんだろう?
その日、苗を全部抜きました。土をやり直すところから始めて、もう一度ゼロから「無農薬で育てる」と決めた朝のことを、今でもはっきり覚えています。
千年前から「肌の薬」だったバラ — 伝統と科学が一致する理由
面白いのが、バラの歴史です。
ダマスクローズというバラは、ペルシャ(今のイラン)で1000年以上前から、肌の手入れ・産後ケア・心の鎮静のために蒸留して使われてきました。インドのアーユルヴェーダでも、トルコのハマム(伝統浴場)でも、女性たちの暮らしの真ん中にバラがあったんですよね。
環境再生造園の仕事で、バリ島のスパや海外のリゾートに植栽計画を提案することがあるのですが、向こうの庭師さんがよく言うのが「ローズの香りは数千万円のスパ機器より人を癒やす」という言葉。冗談じゃなく、これは現代の研究でも裏付けられています。
ダマスクローズの花弁には、ポリフェノール、フラボノイド、ビタミンC、ビタミンEがバランスよく含まれていて、抗酸化作用が実験で確認されている。海外の皮膚科学の論文では、ローズオイルが肌のバリア機能を改善するというデータも出ています。
つまり、千年前の女性たちが「効く」と信じて使っていたものが、現代の科学でも証明されたということ。植物って、人間の都合とは別の時間軸で、ずっと前から私たちのそばにいてくれたんですよね。
しかも、自分の家で無農薬で育てたバラなら、花弁をそのまま口に入れられる。市販のローズウォーターでは難しい安心感が、家の一輪にはあります。
娘とつくるバラのジャム、息子のべちゃべちゃの手のひら
先週、娘と一緒にバラのジャムを仕込みました。ピンクの花弁を一枚一枚摘んで、お砂糖と一緒にお鍋でゆっくり煮ていく作業。
娘の役目は花弁を入れる係。「これ食べていいの?」と本当に5回くらい聞かれました。「食べていいよ。庭のだから、お薬かけてないから」と答えるたびに、娘の顔がぱっと明るくなる。
その横で2歳の息子が、テーブルに置いていたボウルに手を突っ込んで、花弁を握りつぶして遊んでいました。手のひらがピンクになって、口の周りも甘くなっていて。「これは怒るところかな」と一瞬思ったけど、結局笑ってしまった。
子どもたちが「食べられる花が庭にある」感覚を当たり前に育っていくこと。これは私が屋久島でバラを育てる、いちばん大きな理由かもしれません。
娘がいつか自分の家を持ったとき、うちのバラから採った種を持っていける。そういう「次に渡せるもの」を一つずつ増やしていくのが、私のやりたい暮らしなんです。
翌朝、トーストにジャムを塗って3人で食べたら、娘が「うちのバラの味やね」と言いました。なんかその一言で、3年の遠回りが報われた気がしたんです。
「無農薬って、結局むずかしいんじゃない?」と思っていた頃
無農薬と聞くと、なんだか上級者のものに感じませんか。私もずっとそう思っていました。
本当にしんどかったのが、2年目の春。ネパール出張で2週間家を空けたら、帰ってきた庭が真っ黒だったんです。アブラムシの大群で、新芽がびっしり覆われていて。長靴のまま座り込んで、もう泣きそうでした。
そのとき息子はまだ生後半年で、抱っこ紐で抱いたまま庭に出ていた。完璧に育てたいのに、仕事も子育ても全部抱えて、何もできない自分が情けなくて。
でも、辞めなかった。理由は単純で、娘が「ママ、お花のお水あげたい」とジョウロを持ってきたからです。
その日からなんとなく、「完璧に育てる」をやめました。アブラムシが出たら水で吹き飛ばす、テントウムシを呼ぶ、それでもダメな葉は切る。植物に「どうしてほしい?」と聞きながら、その答えに従う感じです。
そのゆるさで3年経ったら、結局いちばん元気な株が残ったんです。無農薬って、技術の話より「植物の声を聞いて待つ」ことのほうが大事なんだなと、いま振り返って思います。
初心者でも始められる無農薬バラの育て方と、暮らしへの取り入れ方
ここからは、3年の試行錯誤を経て「これは効く」と確信したコツを、育て方と活用法に分けてまとめます。プロの視点も入れているので、本にあまり載っていないポイントも含めました。
育て方の6つのコツ
- 強い品種を選ぶ:いきなり繊細な品種を選ぶと、初年度で心が折れます。最初はロサ・ルゴサ系(ハマナスの仲間)やノックアウト系など、耐病性が高い品種から始めて。多湿地帯でも元気に育ちます。
- コンパニオンプランツを近くに:チャイブ、ニンニク、ラベンダーをバラのそばに植えると、アブラムシが寄りつきにくくなります。匂いの強いハーブが、自然の虫除けになるんです。
- 水やりは朝、葉裏にはかけない:黒星病のほとんどは、夜の湿気が原因。朝のうちに株元だけ水をやるだけで、病気の発生率が体感で半分以下になりました。
- 食酢スプレーを薄めて使う:食酢を水で30倍に薄めて霧吹きでシュッと。アブラムシ予防と軽い殺菌になります。週1で十分です。
- 株元に有機マルチを敷く:落ち葉や藁をふんわり敷くと、土が乾きすぎず、雨で泥が葉に跳ねるのを防げます。これだけで黒星病が激減します。
- ミツバチや訪花昆虫を歓迎する:庭に小さな水場を置くだけでハチが来てくれます。バラだけでなく野菜の実つきもよくなって、庭全体の循環が整う合図になります。
暮らしへの取り入れ方(5つの活用法)
- ローズウォーター(化粧水):花弁を耐熱ボウルに入れて、鍋で湯せん蒸留。蒸気が冷えて落ちた水が化粧水になります。冷蔵で約2週間。シミ予防にも使えます。
- ローズジャム:花弁100gにグラニュー糖80g、レモン汁少々で煮るだけ。トーストやヨーグルトに合います。子どもも喜ぶおやつに。
- ハーブティー:花弁をネットに入れて天日で2日干せばドライローズの完成。紅茶やルイボスに混ぜると、PMSやイライラの日に効きます。
- バラ風呂:その日摘んだ花弁をひとつかみ湯船に。香りのストレスケアは、エビデンスもある立派な美容習慣です。
- ローズハニー:花弁を蜂蜜に1週間漬け込むだけ。喉の調子が悪い日、子どもの咳が出る夜に重宝しています。
あなたの暮らしに、ひとり分のバラを
無農薬のバラは、完璧に育てる必要はないんです。1株でいい。鉢でもいい。失敗しても、また来年咲きます。
この3年、毎朝庭に出てバラの様子を見るうちに、気がついたことがあります。
植物の手入れって、自分の手入れでもあるんですよね。土を触っているとき、私は自分の心も一緒に整えている。庭が育つほど、私の中の何かも育っていく。
このブログを読んでくれている方の中に、「いつかやってみたいけど、まだ自分には早い気がする」と思っている方、いませんか。私も全部そうでした。でも、最初の一歩を踏み出した日のことだけは、今もちゃんと覚えています。
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